系図
糸東流の原理
■武道の四要素
空手道に限らず武道を修練する上で重要な四つの要素があり、『一眼二足三胆四力』といわれる。
「眼」とは着眼のことで、眼付けである。相手の動きを見るのはもちろん、屋外であれば地形地物天候等を一瞬のうちに察知し、自分の有利な場所に自らを置くことである。相手と対して、どこを見たらよいか。まず相手の眼の動きによって心の動きを察知する。しかし、眼にばかり心をとらわれると他の動きが判らない。
一応は相手の眼に着眼するが、相手の動静が全部判るよう全体を包むように見ることである。基本や形の場合は正面、または進行方向の自分の眼の高さを見る。特別の場合を除き下を見るのは着眼点も外れ姿勢も崩れるので絶対に行なってはいけない。
「足」とは運足のことである。攻撃防御ともに運足が速く軽く、しかも重心が安定しなければならない。必要以上に高く跳んだり、重く足をひきずっては体が動かない。地面には着かず離れ過ぎず軽快な足捌きが必要である。
「胆」とは胆力のことで、どのような場合にも、驚いたりあわてずに何事も冷静に判断して処理する精神。
「力」とはチカラのことで、筋力とか持続力とか瞬発力等があり、いずれも大事な要素であるから、日常鍛錬するよう心掛けることである。初心者は無駄な所に力が入り過ぎ、かえって技を邪魔することがあるので、力の使い方をよく研究することが必要である。
■糸東流空手道の修練の目標
(1) 体育としての空手道
理想的健康法(老若男女、誰でもできる)
医学的に見ても理想的健康法である。
(2) 武育としての空手道
武道の原点である。
(3) 気育としての空手道
理想的気育法である。
■糸東流空手道の三大要素
(1) 殺法
・極め技
・投げ技
・逆技(関節技)
・捕縛術
(2) 活法
・殺活法と救急法
・健康法
・自然治癒能力
(3) 心法
・呼吸法
・気の養成
・瞑想法
・精神統一(催眠法)
■空手道技法
(1) 空手道技法は徒手空拳の武道である
(2) 使用する身体部位は、主として上肢(手)下肢(足)を使用するが、身体全部が武器として使用される。
(3) 技術としては、突技・打技・当技・蹴り技の他、投技・関節技・捕縛法等々がある。
(4) 技法には受け技と攻め技に分類しているが、受け技即攻め技であり、攻め技即受け技である。従って受け技、攻め技は同一の技であり、分類するものではないが、初心者の修練のために受け技と攻め技を分けてある。
稽古の過程において受け技(防御技)、攻め技(攻撃技)と分類して指導するも、習熟後は同一技として修練する。
従って受けの五法(受けの五原理)に対して、攻の五法(攻めの五原理)がある。
受け五法 攻め五法 | 内容 |
---|---|
受け:落花 攻め:撥止 | 相手の攻撃を撥止と受けた瞬間に加撃する技法(上段揚打、中段横打、下段払打、交叉突等) ・撥止直砕花紛紛 |
受け:流水 攻め:水心 | 相手の攻撃する力と方向を上手に利用しながら円運動の要領にて加撃する技法。(流し受け、掬い受け等) ・水心柳風雲悠悠 |
受け:屈伸 攻め:柔軟 | 体の屈伸柔軟性を利用して相手の攻撃をそらして反撃する技法(掌底、弧拳、鶴拳等) ・柔軟萬化胡蝶の舞 |
受け:転位 攻め:空受 | 相手の攻撃に対し、転身によって空受けして反撃する技法(空受け反撃) ・空受け反撃瞬時の間 |
受け:反撃 攻め:電光 | 相手の攻撃に対し、我が方からも瞬時に攻撃して勝をとる技法(突き受け、差し手等) ・電光影裡春風を斬る |
基本の技術
■受け五法(受け方の五原理)
(1) 落花
散り落ちる花に対して、大地は体をかわしたり、避けたりしないで、花の落ちて来るそのままの位置でこれを受け止める。これにちなんで相手の攻撃に対する受けの態度がちょうどこの大地の態度に似ているという意味で名付られている。
相手の攻撃をそのままの位置にて、がっちり受け止める受け方。
[例]中段突きを定位置にて、横受けまたは横打ち。
(2) 流水
相手の攻撃に対して、逆らわず、相手の力をその方向に流れさせる受け方。
[例]中段突きを、右半身か左半身かに相手と入れ違いになるように体を転じながら、横受けまたは横打ちをもって受け流す。このときの受け方、態度が即ち掬い受け等も流水の分類に属する。
(3) 屈伸
相手の攻撃に対して、我が体勢の屈伸を活用する受け方。
[例] 中段突きを、体を引いて猫足立ちの低い姿勢で受け、平安二段の形の前屈立ち下段払い受けから前足を引いて基立ち、上段打ち落としの屈伸を併用。
(4) 転位
相手の攻撃に対して、その攻撃目標の位置を転じて防御の目的を全うする。
[例]上段突きを、顔を左または右へ曲げるか、あるいは、ちょっと腰を落として低くなるだけで攻撃を避けることができる。
攻撃目標の位置を移転させることによって、受けの目的を達成する場合を転位という。
(5) 反撃
相手の攻撃に対して、体を引くのではなく、攻撃と同じに反撃する。
[例]突き、受け(上、中段)
上段突き、受け、 中段突き、受け、中段輪受け
バッサイ大・平安四段・三戦。
■転身八方
前後・左右・斜め方向に移動する体捌きで受けを行う。次の「転歩五足」を学ぶことで、合理的な捌きが完成する。
■転歩五足
(1) 出足
前方または側方へ足を踏み出すこと。
(2) 引足
後方へ足を引くこと。
(3) 寄足
左右の足を配置を変えず左右または前後へ身体の位置を変えること。
(4) 回り足
大きくまたは小さく身体の方向を変えること。
(5) 跳び足
跳んで身体の位置を変えること。
■肘当て六法
外八字立ちに構えて、右足を6時方向に引き、左足前前屈立ちとなる。
(1) 回し肘当て
正面左足前前屈立ちの構えから12時方向に右足を踏み込み四股立ちになり、右手にて肘当て。手の甲は上。
(2) 後ろ肘当て
右足を6時方向に引き左手肘で外しながら左足前前屈になり、後方に右手にて肘当て。手の甲は下。
(3) 中段縦肘当て
右足を12時方向に踏み込み右足前前屈立ちとなり、中段に右手にて肘当て。手の甲は横(外方向)。
(4) 横打ち
右足を9時方向に動かし八字立ちとなり、右手にて上段横打ち。手の甲は外。
(5) 落し肘当て
9時方向に向いたまま腰を落としながら(四股立ち)、右手にて下方に肘当て。手の甲は外。
(6) 横肘当て
右足を3時方向に移動、正面を向いて外八字立ちとなる。3時方向に寄り足をして、3時方向に右手にて肘当て。
手の甲は上。正面を向いて、外八字立ちとなる。
※構えが、右足前前屈立ちとなれば左手の肘当て六法の練習
■七段蹴り
外八字立ちに構えて、右足にて、
(1) 前方に膝蹴り(当て)。
(2)下方に下足底(踵)にて相手の足甲を踏む。
(3) 足を後方に曲げ、後ろ踵にて後方の相手の金的蹴り。
(4) 足甲にて前方の相手の下段(金的)蹴り。
(5) 上足底にて中段蹴り。
(6) 右足にて右斜め下段に足刀蹴り。
(7) 右足にて左斜め下段に足刀蹴り。
※7動作は足を床に下ろさず、連続して行う。
右足が終われば、左足も同様に行う。
形
■形の意義(何のために形を修練するのか)
(1) 組手技法の研究
形の三大要素が組手技法に通じる。
1. 技法の変化
2. 気息の呑吐
3. 重心の移動
(2) 自己鍛錬精神修養
■形の修練について
(1) はじめは糸洲系の形より入る
[基本形] ナイファンチン 初段、二段、三段
[開手形] 基本四つの形
(1937(昭和12)年3月沖縄県空手道振興協会制定形空手道基本型(1段より12段)の抜粋)
平安(ヘイアン)二段、三段、初段、四段、五段、ジッテ、ジオン、ジイン、バッサイ(大) 等々
(2) 以上終了後に東恩納系の形に入る。
[基本形] 三戦(サンチン)、転掌(テンショウ)
[開手形] セーサン、セーパイ、セーエンチン、等々
以後、糸洲系と東恩納系の形を適時交互に修練して、その特徴を把握修得する。
また、その間、新垣派、松村派、泊手など、及び鶴法(中国拳法)、そして沖縄古武道の釵、棒、棍、その他を修練し、また、他武道を修練する。
■首里手と那覇手について
《首里手の系統》
小林流、少林流、松林流
《那覇手の系統》
剛柔流、上地流
《泊手の特徴》
中国山東省出身の禅南(チャンナン)が伝えたと句碑にある。
泊は首里と那覇の間にあり、形は首里手に近く那覇手に似た技法も含まれている。
公相君(コウソウクン)は首里手の代表的な形だが、チャタンヤラ公相君(クーサンクー)には那覇手独特の技法である回し受けが用いられている。
■糸東流の形系統
◎糸洲派(首里手)
1.ナイファンチン初段 2.ナイファンチン二段 3.ナイファンチン三段 4.平安初段 5.平安二段 6.平安三段 7.平安四段 8.平安五段 9.バッサイ大 10.バッサイ小 11.公相君大 12.公相君小 13.四方公相君 14.十手 15.慈恩 16.慈允 17.腕秀 18.鷲牌初段 19.鷲牌二段 20.鷲牌三段 21.鎮東 22.鎮定 23.五十四歩
◎東恩納派(那覇手)
1.三戦 2.転掌 3.十三 4.十八 5.クルルンファ 6.シソーチン 7.三十六 8.セイエンチン 9.スーパーリンペイ 10.サイファ
◎松村派
1.パッサイ 2.十三 3.鷲牌
◎新垣派
1.二十四 2.雲手 3.壮鎮
◎鶴法(呉賢貴)
1.フッファー(白鳥) 2.ニーパイポ 3.パープーレン
◎松茂良派
1.ワンカン 2.アーナンコウ
◎北谷屋良
1.公相君(クーサンクー)
◎泊
1.パッサイ
◎石嶺
1.パッサイ
◎上地
1.心波
◎摩文仁賢和
1.明星 2.青柳 3.十六 4.松風
分解組手
■分解組手について
糸東会の特徴としては形を根幹として、その内容を徹底的に研究し、その技を実際的にかつ理論的に研究して分解組手として練習している。
一つの形に含まれている技法はそんなに多数含まれているわけではないが、一つの技の応用、変化を考慮すると、その技はほとんど無限である。
分解組手を行う場合、単に機械的に技を掛けたり、相手の調子に合わせて行うことなく、よく相手の動静や間合いを見て攻撃目標を捕らえ隙を見出すと同時に自己の持てる最大の力と機敏な動作を持って攻撃し、必ず相手を打ち倒す気力を持って攻撃しなければならない。
この場合、目標に必ず達する間合いで攻撃しなければ、受け側の者も、受け技・転身等が正確に練習できない。
受け側になった者は、眼付・転身の位置・受け技・反撃・残心等を正確に行い、防御即攻撃が受け手の技の一大特徴となる。
相手の攻撃をかわした瞬間が最も相手が虚の状態になる時で、また体勢にも隙が出来るときであるため、その時、間髪をいれずに直ちに完全なる反撃を行うことが肝要である。
応用組手
■応用組手について
現今、組手が盛んになり、そのためか形の重要性が軽視されつつあるが、形の真意を本当に修練体得し、その持つ技を応用変化させて自在に駆使しえないことには、組手の進歩発展はありえない。
真に形の持つ心、技の深みを感知体得すれば、形と組手は車の両輪のごとく、一つの物であることがおのずから体得できる。
<練習注意点>
(1) 正確な目標の把握。
(2) 迅速な出足と身体の移動。
(3) 攻撃技の正しい姿勢と的確な間合い。
(4) 一人でゆっくりと正確な姿勢でまず攻撃技。
(5) 防御から攻撃への連携。
(6) 出足・突き・蹴りの速度を速く行う。
(7) 相対練習。
(8) 自由組手一本。
(9) 自由組手(基本の応用)。
(10) 得意技を見出し体得する。
以上の順序で応用組手のレベルアップを図っていく。